Social Innovation Park

今日は仕事後、19時から渋谷のETIC.で行われた(主催はソーシャルベンチャーパートナーズ東京)、シンガポールの社会起業支援組織SIPSocial Innovation Park)の創設者で現役の国会議員でもあるペニー・ロウさんという人の講演に行ってきました。

ペニーさんは大学卒業後、シンガポールの国営テレビ局(NHKみたいな)に入社、ドキュメンタリー番組の制作などに携わりますが4年後に辞めて1年半にわたって世界各地を放浪しました。東欧、ヨーロッパ、アフリカ。

仕事もせずに各国渡り歩くうち、「自分はなんて恵まれてるんだ!」ということを実感、その恵まれた境遇をどう社会に活かせるか、を考えるようになる。日本やアメリカのような豊かな国の人々と途上国の貧しい人々の違いは何だろうか? 才能? いや、幸運であるかどうか、だ。経済・社会環境、家庭環境、教育、衛生、等々の所与の条件の差が、そのまま持続し固定化している、と。

資本主義は優れたシステムだが落ちこぼれも生んでしまう。落伍者を出さない(つまりセーフティネットの整備された)資本主義、いわば包括的な資本主義にならなければならない、というペニーさんの主張は『グラミンフォンという奇跡』で語られたことと同様です。

社会をよくしたい、との思いを募らせたペニーさんはさまざまな仕事をしながら経験を積み、2001年に最年少の女性議員として国会議員に当選、2006年にSocial Innovation Park を立ち上げ、シンガポールにおける社会起業の支援、精神疾患身体障害者の雇用創出とエンパワーメント、等々に精力的に取り組んでいます。

非常に示唆深い発言をいくつも聞くことができました。

1960年代、世界で最も貧しかった地域はアジア・アフリカだった。しかし現代、アジアは発展しつづけている一方、アフリカは最貧層に留まっている。この差は何か。アフリカには、多大な援助があったこと。アジア各国はビジネスの機会を得て発展している、アフリカは先進国からの援助に依存し、貧困を抜け出せないでいる(無論アジアにも膨大な数の貧困層がいますが、地域総体としての話です)。まさに「援助ではなくビジネスチャンスを」。

SIPでは支援対象の個人や団体に対して、ソリューションを与えることはしないという。ネットワークを提供し、場を提供し、機会を創出し、モチベートする。そういうアプローチを徹底している。そこから数々の成功事例が生まれており、SIPは急速に成長しています。

ソーシャルセクターがビジネスセクターの人々を巻き込んで行くには何が必要か? との問いには、"Speak their language." ビジネス人を動かしたいならビジネスの言葉で語らなければならない。これは単純なようで非常に示唆深い、重要なアドバイスだったと思います。

また、"WIIFM" つまり "What in it for me"(それは私にとって何なの?)に答えることが重要、と。こういうメリットがあります、と示すことなど。これもソーシャルセクターにとって重要な点だと思います。より多くの人、多様な人材を巻き込んで、活動が伸びていくといいなと思います。

社会起業の波は今、世界各地で大きく盛り上がってきています。日本でも、この波が着実に広がっています。と同時に、個々の社会起業の動きをどのようにして発展させ、根付かせ、広げていくか、どのようにしてより大きなインパクトを実社会に与えていくか、が問われています。ペニーさんのメッセージやSIPのような支援組織の存在は、その点で非常に示唆に富むものだと思いました。

私たち英治出版にできるのは、彼らのことをより多くの人に伝えること、より多くの人の関心を社会起業に惹きつけていくこと、志ある人たちのためになる情報を伝えること、などです。今日会場でお会いした方にもまた激励の言葉をいただきました。社会起業家たちがさらに活躍し、世の中が自律的に良くなっていく、そんなアウトカムを見据えて、適切で良質な本というアウトプットを出していきたいと思います。