CSRイノベーション

日経ホールで開催された、ジャパン・ソサエティー創立100周年記念シンポジウム「CSRイノベーション〜社会貢献と企業変革の融合〜」に出席しました。Tさんから勧められたものです。ありがとうTさん。

「これからCSRに何が起こるのか。寄付が社会的投資に向かい、企業と社会起業家が手を結び、本業と社会貢献が融合していく。そして、その潮流が、企業、市場、社会のイノベーションを推し進めていく。日米のイノベーターが集まり、そのビジョンを語り合います」

ということで、スターバックスマイクロソフトの役員の講演と、アキュメンファンド代表ジャクリーン・ノヴォグラッツ氏などによるパネルディスカッションがありました。パネルディスカッションの司会は田坂広志先生。

CSRのコンセプトはここ数年で広く知れ渡りましたが、コンセプト自体も発展してきているようです。シンポジウムのタイトルは「CSRによるイノベーション」と共に「CSRイノベーション」も含意されたものでしょう。要諦は上記の告知文が示唆するように、

・寄付から社会的投資へ

寄付よりもレバレッジの効く投資のほうが大きな効果がある。これはもともとCSRと同時期にSRIも盛んに言われ始めたことを思えば特に目新しくない気もしますが、そうでもない。

5、6年前にSRI(社会責任投資)が盛んに叫ばれた頃、良いコンセプトだと思う一方、「企業のインテグリティを評価する」というインテグレックスなどのスクリーニング方法に(詳しいことは知らないながらも)難しさを感じたものでした。環境に良いことをしている企業に投資する、というエコファンドについても、そうした取り組みの効果が収益に直結するわけではないため容易にブランディング合戦になるのでは、と懐疑的に思っていました。

が、田坂先生が「寄付から社会的投資へ」と語ったこの社会的投資とは、金融商品としてのSRIとは意味合いがちょっと違って、企業がソーシャルビジネスに対して直接投資することをも含意している。これは、

・企業と社会起業家が手を結ぶ

ということにつながっている。マイクロソフトNPOなどをパートナーと捉えて共に社会的な活動をしている、と語られていましたが、企業→社会起業家への一方的支援の関係ではなく、両者が協働・共創の関係を築くこと。これはユーザーを交えた製品開発、田坂先生のよく言われるプロシューマー型の製品開発という発想を、社会改善にも適用しようということです。これを推し進めれば次の点にたどりつくのは自然な流れでしょう。

・本業と社会貢献の融合

つまり、CSRのコンセプトは、単に企業のインテグリティを評価するという以上の意味を持つに至っている。企業にとってインテグリティは当たり前で、より積極的な社会改善の取り組みを行う必要がある、それが企業の社会的責任だ、という意味です。そしてそれは本業と融合し、相乗効果を生み出しうる。これについてパネリストの一人、キース・ヤマシタ氏は、顧客価値・社会価値・企業価値のつながりを説いていました。

思ったこと。

・上記のCSRイノベーションは、社会貢献が事業として成立する可能性、に多くを負っているように思います。つまりソーシャルビジネス(社会起業)の勃興が、CSRという側面から企業行動を変え始めたのだということ。

・日本では非営利組織への寄付は少なく、税制から風土までさまざまな要因が指摘されています。では社会的投資を促進する上での課題やその対策は何か。これを考えなければ、と思います。投資先の選定、透明性と説明責任。一般投資家からの資金調達として、金融機関が組成するSRIファンドだけでなくトラッキングストック(制度の本旨とは異なりますが)のような仕組みもありえないか、など。

・顧客価値・社会価値・企業価値の並立とは、近江商人の「三方よし」(買い手よし、世間よし、売り手よし)に似ています。CSRの源流は近江商人の商売哲学にあるのだ、と語る本もあります。そういう捉え方は日本企業に(特に高齢層に)CSRをさらに浸透させていく上で重要かもしれない。

何でもそうですが、新しい概念やコンセプトが、厳密な議論を経ないまま英文やカタカナ語で雑駁に語られる例が多い気がします。それについていく姿勢はもちろん大切ですが、他方、そうした語られ方が、日本の旧世代にとって本来無用な壁を感じさせる一因になりうることには留意すべきでしょう。

・「企業は社会の公器である」とは昔から言われていたことです。CSRによる企業変革は、企業が新たなものを受け入れるというより、本来持っていたはずのものを取り戻すこと、と言えるのでは。以前紹介した『非営利組織の経営』の影響もあってそう思いました。

・先月の講演でピーター・センゲ氏は、企業にとって利益は酸素のようなものだ、と述べていた。酸素がなければ生きていけない。が、呼吸することが生きる目的なのではない。CSRによる企業変革の成否は、企業や事業の意義、働く人にとっての仕事の意義、にも大きく関わってくるのではないかと思います。