ピーター・センゲ氏の講演

1月30日、SoLジャパン(組織学習協会日本コミュニティ)が主催した「学習する組織」経営者シンポジウムに出席してきました。

「『最強組織の法則』のピーター・センゲ氏と『知識創造企業』の野中郁次郎氏、知識社会を代表する世界の二大巨頭の世紀の対談が日本で実現!」ということで、非常に楽しみにしていたシンポジウムです。

SoL(Society for Organizational Learning)はその名のとおり「学習する組織」の普及を目的とするネットワーク組織で、ピーター・センゲ氏が創設者。日本コミュニティであるSoLジャパンはチェンジ・エージェントさんを中心に立ち上げられ、今回がその初の大型イベントです。

ピーター・センゲ氏といえば『最強組織の法則』The Fifth Discipline: The Art & Practice of The Learning Organization)。私は一年前に『出現する未来』を読んで甚く感銘を受けて以来気になっていた存在です。英治出版ではセンゲ氏が序文を書いているジョセフ・ジャウォースキー著『シンクロニシティ』とデヴィッド・ボーム著『ダイアローグ』を昨年10月に出したところ。関心は高まるばかりです。

センゲ氏の講演は期待どおり非常に示唆深く、壇上を歩き回り身振り手振りを交えながらその世界観を語る姿が印象的でした。話題は近代以来の工業化社会の果てにある今日のさまざまな地球規模の問題に立ち向かう必要(ここにおいてセンゲ氏の提唱するシステム思考が極めて重要になる)を説き、最後にセンゲ氏は、今後の私たちにとって大切なのは「命を育む生き方」だ、と言いました。

物を生産し消費し廃棄する、その単線的な流れを、生産・利用・再生の循環的な流れに変えていくこと。ゴミの分別回収やリサイクルという話にとどまらず、大きな思想的なパラダイムの転換が求められています。それはセンゲ氏が18年前に『最強組織の法則』を著して以来提唱しつづけてきたことで、ふと同書を開いてみれば冒頭にこう書かれています。

「問題にぶつかったらばらばらにするんだ、世界を細かく分解すればいい――幼いころからわれわれはそう教えられる。これで複雑な課題やテーマも一見取り組みやすくなる。しかし、その裏にひそむ莫大な代価をわれわれは支払うことになるのだ。なぜなら、行動のもたらす結果をもう予測できないからである。つまり、より大きな統一体とつながっているという実感が失われてしまうのだ。……本書で紹介する方法やアイデアは、世界が個別の、互いに関連のない力で成り立っているという幻想を打破しようとするものだ」
――ピーター・センゲ著『最強組織の法則』(守部信之訳、徳間書店

この近代以来の幻想打破のための方法がシステム思考はじめ5つのディシプリン。『最強組織の法則』はいわゆる経営書ではありますが、その内容は企業経営の領域のみならず行政や教育や社会問題への対応等々幅広い領域を射程に入れていた。分解思考からシステム思考へのシフトは、まさに時代の要請するものと言うことができるでしょう。

野中郁次郎氏の講演、センゲ氏の講演、リクルートと日産の役員を交えてのパネルディスカッション、と充実したプログラムが進んだ後の第2部では、「ワールドカフェ・ダイアローグ」を参加者自身で実践するセッションが設けられ、これも非常におもしろかったです。ワールドカフェとは何か。この普及に取り組むヒューマンバリューさんの説明によれば、

ワールド・カフェとは、「知識や知恵は、機能的な会議室の中で生まれるのではなく、人々がオープンに会話を行い、自由にネットワークを築くことのできる『カフェ』のような空間でこそ創発される」という考え方に基づいた話し合いの手法です。
――HUMAN VALUEウェブサイトより

カフェ的会話で創造的なコミュニケーションを、ということで、今回のシンポジウムでは参加者が4人組みのグループに分かれて講演を踏まえた意見交換を行ない、グループを入れ替えてまた対話。いずれも初対面の人同士なのですがいろんな意見が活発に出されて、非常におもしろいひと時でした。

シンポジウム終了後の懇親会にも参加。多くの方とお話しできて楽しかったです。いろいろ刺激やアイディアのヒントを得た感じもするし、学びたいこともまた増えた。今後もこういう場には積極的に参加していきたいと思います。

最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か