ワシントンDCの教育改革

ミシェル・リー(Michelle Rhee)という人がいる。ワシントンDCの教育監(chancellor)として公立学校の改革を推進している韓国系二世。アメリカの学校のなかでも特に荒廃が甚だしい地域の学校をこれまでに21校も閉鎖し、校長や教師や100人以上の職員を解雇するなど、とても大胆な改革を行っている。21校というのは2008年11月の記事で読んだ数で、ちょうど今日のワシントンポストで新たに3校を閉鎖するというニュースが流れていたから24校以上ということになる。

まだ39歳の若さでそんなすごいことをしているこの人は何者なのか。ミシェル・リーは、コーネル大学卒業後に弁護士となる道を捨ててティーチ・フォー・アメリカ(Teach For America)に入り、3年間教鞭をとった。TFAについては以前もこのブログに書いた。全米の優秀な学生をリクルートして各地の公立学校に教員として派遣している非営利団体で、創立以来18年間、非常に大きな成果を上げている。アメリカの公教育改革の旗手と言うべきこのTFAを経て、リーは自らThe New Teacher Project(TNTP)を立ち上げ、優れた人材を教員にリクルートする活動を開始。10年間で約20,000人の敏腕教師を全米22州に送り込んだ。そうした実績を買われて2007年、ワシントンDC教育監というものに抜擢されたというわけだ。

というわけで、TFA卒業生のなかでも際立った活躍をしているこの人に注目しているのだが、激しい改革に抵抗はつきもの。いろいろと反発もあって大変らしい。ちょうど先日、CSMonitorというサイトにリーについての記事が載っていたのでリンクしておこう。リーの兄弟によれば、リーは毎朝6時半から深夜1時まで働くのだという。恐れ入る。

ともかく、このミシェル・リーは、「チョークを持つ人の質を改善することで教育は改善できる」という考え方に徹している。つまり先生の質を良くすることこそ大事であって、子供には本来、問題はないのだと。きっとそうなのだろう。金融機関やコンサルティングファームに行きがちな所謂一流の人材にとって、「教師になる」ことは人生の選択肢になりづらかった。これを変えたのがTFAやTNTPの革命的なところの一つであり、リーの教育改革もその延長線上にあると言える。能力不足の教員を大量解雇する一方で、リーは優秀な教員をリクルートするために、給与水準の引き上げ、成果主義の導入などを図っている。

称賛とともに批判も多いミシェル・リーの急進的改革が今後どういう成果を見せるかはわからないが、この一見単純な考え方は、日本の教育現場においてもきっと当てはまるにちがいないと私は思う。日本の公立学校の現状について詳しくは知らない。が、採用の仕組みや転職可能性の乏しさなどから、多くの優秀な学生にとって「教えること」が人生の選択肢になりにくいのはまちがいない。他方で、問題行動で逮捕される教員の事件はこのところ毎日のように報じられている。チョークを持つ人の質を改善しなければならない。もっと多くの優れた人材が教育に関わるようになることが必要だし、関われる仕組みが必要だろう。