グラミンフォンがIPO

ニコラス・サリバンのブログで知ったのですが、グラミンフォンがIPOを計画しています。9月末に公募と私募でそれぞれ1億5000万ドル、計3億ドルを調達するとのこと。バングラデシュの証券市場は今、この国最大手の携帯電話会社のニュースで大騒ぎの模様。

2007年ノーベル平和賞受賞のムハマド・ユヌス率いるグラミン銀行グループがノルウェーの通信会社テレノールなどと共に設立し1997年に開業したグラミンフォン。世界の最貧国のひとつバングラデシュの経済・社会に劇的な変化をもたらしながら成長をつづけ現在の顧客は2031万人。アジア・アフリカの途上国における携帯電話市場成長の象徴的なケースとなっています。

デイリー・スターによると、上場は「国の資本市場の歴史においてブレイクスルーをもたらすだろう」Byアブ・アーメド(ダッカ大学経済学部教授)。

現時点でグラミンフォンの株式は62%をテレノールが、38%をグラミンテレコム(グラミン銀行傘下)が所有しています。そして上場はグラミンサイドでは以前から望んできたことでした。『グラミンフォンという奇跡』(ニコラス・サリバン著)によると、1999年のグラミンフォンのアニュアルレポートには「人々の手に」のグラミン哲学がこう記されていた。

グラミンフォンの所有権も、人々の手に置くことを計画している。経済的な有効性が検証され次第、当社の株式は公開され、一般の人々が株式を購入してグラミンフォンの誇り高き株主になれることになる。

とはいえこれまでIPOの動きはなかった。その背景についてサリバンはこう書いていた。

ダッカ証券取引所にとっては、国の最も力強い企業を上場させられたら、それは大きなはずみになるだろう。しかし、グラミンフォンの側から見ると、(60%の市場シェアと高い利益率をもってすれば)自社の成長に必要なだけの資金は自社でまかなえる。したがって、自社の株式を急いで公開する必要も、おそらく感じてはいないのだろう。ワリドやオラスコムなどとの競争が激しくなったら状況が変わり、グラミンフォンや他の企業が上場せざるをえなくなるかもしれない。

彼の予測通りと言うべきか、近年オラスコムの運営するBanglalinkなど競合も成長してきて(顧客946万人)、グラミンフォンの市場シェアは2006年の63%から現在は47%になっているとのこと。これだけが理由ではないでしょうが。また、テレノールとグラミンテレコム側での意見対立もあって難航してきた感もありますが(ムハマド・ユヌスは、グラミンフォン株式の20%はグラミン銀行の株主が所有するようにしたい、とか、いろいろ主張があるらしい)、ともかく9月末に、ダッカ市場の歴史に残る上場劇が実現します。

元をたどれば、バングラデシュを出てアメリカで働いていたイクバル・カディーアのふとした気づきから始まったグラミンフォンの物語。

ある日、コンピュータのネットワークがつながらなくて困っていたカディーアの胸に、ふとバングラデシュの田舎にある祖父の家の記憶がよみがえってきた。戦争をのがれてひっそりと暮らした村の記憶だ。電話がなかったので、弟の薬を探すため1日かけて10キロの道を歩いたことがあった。ところが薬局に行ってみると、薬剤師は薬を入手するために村を離れており不在だった。なんという無駄だ。――

カディーアはマンハッタンのオフィスで数時間仕事ができなかっただけでイライラした。だが、バングラデシュは、アレクサンダー・グラハム・ベルが電話を発明して以来ずっと、電話によるコミュニケーションができず骨抜きになっている。

「私は、“つながること”はすなわち生産性なのだと気づいた。それが最新のオフィスであろうと、発展途上国の村であろうと」(前掲書)

資本市場とつながることで、グラミンフォンのソーシャルイノベーションはまた一つ新たなステージに入り、歴史を大きく変化させていくにちがいありません。