『ルポ児童虐待』

「1週間に1人の割合で、日本のどこかで子どもが虐待されて死んでいます。児童相談所に寄せられる虐待相談は、この20年足らずで実に30倍超に膨れあがりました」――本書「はじめに」の冒頭にこうあります。朝日新聞大阪本社編集局著『ルポ児童虐待』(朝日新書)。

ルポ 児童虐待 (朝日新書)

先日も、奈良県桜井市と埼玉県蕨市で相次いで起きた、親の虐待により幼い子が死亡する事件が報じられました。昨年1年間の児童虐待の摘発件数は過去最高の335件。2000年に児童虐待防止法が施行され、2008年の改正では児童相談所の家庭への立ち入り権限が強化されたものの、以後も事件は増えています。

恐ろしい親が増えている――と、私も週刊誌の中吊り広告の派手な見出しを目にして思っていましたが、本書は数々の事例の徹底取材によって、単に親の人間性を責めるだけでは到底解決されないこの問題の本質を探っています。

第1章「〈鬼父母〉と呼ばれた夫婦」では、幼女を虐待死させた夫婦がもともとは「どこにでもある幸せな家族」であったことを指摘、会社での信頼も厚いまじめなサラリーマンの父親と几帳面で子育て熱心な母親が、実家や地域の支援を受けられない中、うまくいかない躾にストレスを溜め、徐々に追い詰められていく過程を克明に描いています。また背景には、母親がかつて自分の父母から虐待されていた事実がありました。この「親子連鎖」と呼ばれる事態が、他の事例でも多々見られるとのこと。

児童虐待の加害者の6割は実母。虐待に至る要因には、自身の虐待された経験、育児に関する不安やストレス、家庭の孤立化、などがあり、大阪人間科学大学の原田正文教授が行った調査では、ここ20年で、育児について近所で話をする人がいない、という母親の比率が2倍に増えていることが指摘されています。

原田教授は「かつては大家族や地域が共に担った子育てを母親ばかりが24時間担う現代の状況は異常とさえ言える。虐待予防には子育てサークルなど、母親同士の力をもっと引き出し、互いに支え合える仕組みも必要だ」と指摘する。(p.83)

児童相談所の権限強化など対策も図られていますが、児童養護施設(ここで暮らす子の6割は被虐待児)は深刻な人手不足に直面しており、また保護した後の受け皿が乏しく、いつまでも家庭に戻れないのでは子の成長が阻害される恐れもある。本書終章の専門家による座談会では、機能不全の家族に社会が効果的に介入するための法整備や、虐待防止のためのプログラムの受講の徹底、里親制度の拡充などの必要性が語られています。

前回書いた高校中退でも、この児童虐待でも、課題を抱えた家庭を支援する制度やコミュニティの不足を一つの大きな問題として感じますし、週刊誌などで報じられるセンセーショナルな事件の背景を私たち一人ひとりがよく考え、知っていくことの重要性を感じます。子供を粗末に扱う社会に未来はない。育児経験の有無にかかわらず、社会に生きる私たちすべてに、こうした問題を知り、自分にできることをしていく責任があると思います。