「世界を変えるデザインを語る会」

12月19日、英治出版オフィスにて「世界を変えるデザインを語る会」を実施しました。弊社刊『世界を変えるデザイン』の監訳者、日本総研槌屋詩野さん(ゲスト)と読者が対話するという会です。

以前から、本の著者や関係者と読者をつなぐ場を作りたいと考えていました。講演会やサイン会といった形はありますが、直接語り合える場はなかなかありません。それで今回、少人数の読者を集めて、ダイアログを行ってみました。この分野に関心をお持ちの方10人が参加。

『世界を変えるデザイン』は開発途上国貧困層などの人々の生活を改善するための製品とそのデザイン、開発の経緯を多数紹介した本です。米国のスミソニアン博物館での展示会「Design for the Other 90%」のカタログを翻訳したもの。

槌屋さんは貧困克服をめざす国際NGOオックスファムを経て日本総研でBOPや社会的企業の研究をされており、この本がテーマとする「デザインによる社会問題の解決」にいち早く注目してこられた人。現在はロンドンを拠点に世界各地を飛び回って活躍中。今回はその活動のご経験をもとに、経済開発、BOPビジネスの最新の動向や求められる視点についてさまざまなお話をしていただきました。

話題に上がった一つの事例が、本書にも登場するインドのセルコ社。農村部にソーラーパネルを導入している会社ですが、単に発電設備を置くだけではうまく機能しない。現地コミュニティがどのように動いているかをよく理解し、適合した形で導入する必要があります。

それだけでなく、たとえば家屋にパネルを設置するとしても、その費用をどうファイナンスするか。マイクロファイナンスとセットで提供しても、パネル設置により収入が増加しなければ債務を返済できない。そこで、電力を得ることで可能になる屋内での仕事を斡旋する。たとえばミシンを貸し付ける。ミシンを使って作った製品を販売するルートを設ける。村の全家庭が同じ仕事をすると競合するので、一家庭にミシンを貸すなら他の家庭には別の物を、というように、地域コミュニティ全体、経済や社会の成り立ちを包括的にとらえて、本当に必要なものは何かを考えつづけることで、効果的な事業展開をしているそうです。

このような社会全体をとらえる視点、システム・アプローチとかホリスティック・アプローチと呼ばれるものが、BOPを対象とした事業には求められるようです。それはビジネスの持続可能性を左右します。たとえ便利な機械を導入しても、それが壊れたときに修理できる体制がなければ放置されてしまうどころか、導入に要した費用の債務だけが残るといった事態も起こり得る。

C・K・プラハラード教授の『ネクスト・マーケット』の刊行から4年、いわゆるBOPビジネスへの関心は最近顕著に高まってきましたが、世界40億人と言われるBOPの存在を単純に「多くの人々に物を売るチャンス」ととらえるのか、現地の問題解決や持続可能性を意識して臨むのかによって、その結果は大きく違ってくるのではないかと感じます。

参加者間での意見交換も活発に行われ、朝10時からお昼過ぎまでの会でしたが話し足りずに一部参加者で昼食もご一緒しました。とても楽しく、気づきの多い場でしたので今後もこうした会を適宜設けていきたいと思います。もっと大人数でワールドカフェの形をとってもおもしろいかもしれません。槌屋さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。